防水の工法と材料の種類
結城 伸太郎
防水工事にも様々な工法があり、使う場所や下地によって大きく変わってきます。
このページでは、写真を参考にご紹介します。
目 次
ウレタン防水
ウレタン防水は、防水材を流し込んで防水層を形成する工法で、乾燥後は伸縮率の高いゴム状の物質になります。
ですので、地震等による建物の動きがあっても、それに追従できヒビ割れを極力抑えられます。
シームレス(継ぎ目がなく)な仕上がりとなるので、シート防水のような継ぎ目からの漏水や剥がれの心配もありません。さらに、凸部や複雑な形状にも威力を発揮します。
その上、次回塗り替え時のコストも安く押さえられるので、個人的にはお勧めしています。ウレタン防水の改修工事保証はメーカーによりますが、通常10年程です。
また、ウレタン防水の材料は2液性が主ですが、近年は1液型も耐久性良く改良され使われるようになりました。ただ、常温乾燥なので気温が寒いと極端に乾燥が悪くなるのがデメリットです。
以下はウレタン防水の施工事例です。
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ここはRC(鉄筋コンクリート)造の山形県庁屋上防水改修の物件です。
ウレタン防水の脱気工法(絶縁工法)で施工しました。
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通気緩衝シートまたは絶縁シート等と呼ばれる脱気用シートを貼り付けています。
このシートを貼りジョイントの処理を行えば仮防水も完了します。
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脱気シート貼り付け後、ウレタン防水を塗布(グレー)します。
コテで塗り広げていきます。
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トップコート(遮熱塗料)を2回塗って完成です。
今回は仕様で遮熱塗料で仕上げましたが、通常は2液型のウレタン塗料で仕上げます。
アクリル防水
アクリル防水の工法はウレタン防水と変わりませんが、アクリル防水の最大のメリットは、金属屋根や鋼構造物にも防水が可能ということです。
なので、折板屋根やトタン屋根、水槽やタンク外面にも防水する事ができます。
その時もシームレスな防水が出来るので、ある程度の予測さえつけば確実に防水が可能となります。
アクリルゴムもウレタンゴムも塗膜の強度にそれほど違いはありません。アクリル=水性、ウレタン=溶剤が大きな違いです。
以下はアクリル防水の施工事例です。
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病院の屋上です。既存はゴムシート防水です。
ゴムシート防水は新築でよく使用されますが、5年を経過すると一気にトップコートが退色していくのがデメリットです。
シートは写真のように黒で、その上にシルバーのトップコートを塗布されているのが一般的です。
そのトップコートはもはや無くなるほど退色していました。
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今回は臭い、騒音、を考慮し水性の塗膜防水でアロンST-TK工法を採用しました。ゴムシートを剥がさず被せ工法で施工できるのも利点です。
アクリルゴムやウレタンゴムなどの塗膜防水と呼ばれるものは、このように一斗缶で搬入されます。
シートやアスファルト防水は巻き物状のロールで搬入されます。
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ゴムシート防水は接着剤で貼っていくので、密着性が悪い所が出てきます。
その部分は剥がして施工する事になります、また、その部分から雨漏りしないように仮防水材などで対応していく事を推奨しています。
立上りの部分は基本的に全面剥がします。
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下地調整中です。
クラックやシンダー目地をシーリング処理、欠損部はカチオンタイトなどで不陸調整をします。
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プライマーを塗り、脱気シートの貼り付けです。
今回の仕様はアロンSQ-TK工法というアクリルゴム防水の絶縁工法です。
表面にパンチ穴が開いており、その部分が下地と密着するメカニズムとなっています。
ゴムシート防水を剥がさず、被せ工法で施工できる唯一の工法と言えます。
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防水主剤をコテで2回塗りし、トップコートを塗っています。
工法的にはウレタン防水となんら変わりありません。
ただし、水性なので乾燥が気温に依存し、夏場はウレタンよりも扱いが難しくなります。
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完成です。シームレスな防水層が形成されました。
こちらは病院でしたので臭いを考慮し、水性のアクリル防水を提案しました。
FRP防水
FRPとは “Fiber Reinforced Plastics”の略で、日本語表記に直すと繊維強化プラスチックとなります。車のエアロやプロテクターなどにも使われている頑丈な素材です。
この防水材はガラスマットのような繊維が入ってるので、曲げ強度、ひび割れ等が出にくい防水材です。
主に新築のベランダに使われています。下地はコンパネ下地から出来るので、木造住宅にはピッタリです。
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このようなコンパネ下地から施工が可能です。
まずは空気が入らないよう段差やくぼみをポリエステルパテで平らにします。
併せて、入り隅のコーナーにも面木と呼ばれる三角のあて木を入れて、防水材の密着面積を広げます。
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配水ドレン設置、パテ、面木、継ぎ目のシーリング、そして養生、と下準備を終えてプライマーの下塗りを行います。
プライマーは約2時間もすれば乾燥します。
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主剤1層目塗布中です。
今回は2プライ工法と言ってガラスマットを2枚張りする工法で施工しました。
主剤を塗ってすぐに脱泡作業を行います。1層目が乾燥したら2層目を行います。
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次の日サンドペーパーで表面を目粗し、ブツや突起物を平滑にします。
目粗し後に清掃し、トップコートを塗る前に、一旦アセトンと言うシンナーで拭きあげます。
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トップコート完了です。
乾燥が速いので1日で2回塗りが可能です。
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これはRC造屋上のFRP防水の改修事例です。
浮きが多く剥がせる所は頑張って剥がしましたが…。
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施工面積の30%程度が限界でした。
これ以上は特殊な機械が必要でしょう。
正直、FRPの改修は一番大変かと思っています。この後アクリル防水で改修しました。
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こんな感じで仕上がりました。
FRP防水は木質系下地には向いているが、コンクリートには不向きかと思っています。多少の弾力性はあるものの、やはりコンクリートに追従する程の弾性は得られないと思いました。
今回の様に改修で浮きが多発していると、どこまで剥がせば良いかが分からなくなるので、改修するにしても大変です。新築の防水はRCやモルタル下地にはシート防水かウレタン防水、またはアスファルト防水が無難でしょう。
とまぁ、個人的な意見ですが…。
塩ビシート防水
塩ビシート防水は、ウレタン防水やアクリル防水のような塗る工法とは違い、シートを貼り付けていく工法になります。
紫外線や熱、オゾンに対して耐候性に優れており、軽歩行なら可能です。
塩ビシート防水の工法は2通り
塩ビシート防水には「密着工法」と「機械式固定工法」の2通りの工法があります。
■密着工法
密着工法は、専用の接着剤で下地にシートを貼り付ける工法で、ある程度の強度が期待できます。しかし、通気性が無いので下地の影響を受けやすく、湿気によりシートが浮いてしまう場合があります。
■機械式固定工法
機械式固定工法は、直接貼り付けるのではなく、専用の機械を用いてシートを固定していく工法です。完全に下地に密着しているわけではないため、通気性も確保できます。ただ、シートが多少揺れることもあるので歩行には向いていません。
以下は塩ビシート防水の機械式固定工法による施工事例です。
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加流ゴムシートのトップコートがすでに退色して無くなっている状態です。
部分的に漏水も確認されていました。
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埃、汚れ、チョーキングを綺麗にする為に洗浄を行います。
予め漏水の恐れがある部位は補修しています。
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ラジアルシート(白)は突きつけで敷き、塩ビシートは5cm以上の重なりを設けます。
重なり部分にたっぷり液溶着材を塗り付け、貼っていきます。
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エアーがかんだ所は即座に抜いて丁寧に貼ります。
チョークの墨壷でラインを出し、そのラインに合わせ真直ぐ貼ります。
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ディスク&ビスを設置します。
インパクトできっちり締めこみます。
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シート被せ貼り完了後全景。ディスクは計600個程設置しました。
この機械固定の最大のデメリットはビスを打つための穿孔の騒音です。
鉄筋コンクリートによく使用されますが、屋上スラブの階下にはかなり騒音が出るので、マンションなどなら居住者への配慮が必要です。
それ以外は気温や季節に左右されることなく、柔軟に対応できるとても良い防水工法です。
アスファルト防水
アスファルト防水は、溶融窯でアスファルトコンパウンドを溶かし、溶かしたアスファルトでシートを張っていく工法です。
防水工法の中で一番耐久性が良く、橋梁や道路の床版シート防水も、このアスファルト防水流し貼りが一般的に使われています。
しかし、熟練度で仕上がりが左右されるので、数ある防水業者でもアスファルト防水を施工する業者は限られてきます。
さらに、窯を焚くときにでる煙が尋常じゃないので、新築以外ではほぼ使えないと思います。
アスファルト防水の工法は3通り
アスファルト防水は主に「熱工法」「トーチ工法」「冷工法(常温工法)」の3通りの工法があります。
■熱工法
熱工法は熱して融解したアスファルトを使用して、シートを2~4枚貼り付ける工法です。
大浴場や老健施設などの浴室新築時に施工するのが一般的で、左の写真は浴室の防水です。下階に部屋がある場合などは、この防水工法が一番信頼できます。
■トーチ工法
トーチ工法は、バーナーで炙りながらシートを張っていく工法で、改修工事でよく使われます。
弊社でもよく施工する工法です。アスファルト防水層を上から被せ工法で施工できるのが利点です。
■冷工法(常温工法)
冷工法(常温工法)は、熱や火を使用せずに貼り付けられるシートを重ねていく工法です。
臭いや煙が発生しないため作業しやすく、環境にも優しい工法になります。
ただし、熱を使う工法に比べて密着性が低いため、防水効果も劣ってしまうデメリットがあります。
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熱工法
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トーチ工法
以下はアスファルト防水の熱工法の施工事例です。
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学校の新築工事です。
屋上はアスファルト防水の熱工法と呼ばれる防水です。
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アスファルト防水の特徴は何といってもこの溶融窯です。
液体は200度にもなるためやけどに細心の注意を払います。
数ある防水で一番難易度が高いと言えます。
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始めにプライマーを全面に塗布。
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アスファルト流し貼り施工中。
二人一組で施工するのが早いのですが、広い面積は一人で貼っていく事もあります。
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断熱材敷き込み中です。
断熱工法の場合、アスファルトコンパウンドを付けながら張っていきます。
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アスファルト防水は2~4枚貼り重ねていくのですが、最後は砂付きルーフィングと呼ばれる保護シートを張っていきます。
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最後にトップコートを塗って完了。
超速硬化ウレタンスプレー
超速硬化ウレタンスプレーは、通常のウレタン防水とは違い、特殊な防水工法になります。
特徴としてはその乾燥の速さで、約3分で歩行可能な状態にもなり、車が走っても大丈夫なほど高強度な防水層を形成します。
また、一番力を発揮するのは、歩行が必要なマンション共用廊下、階段、駐車場床です。
そして季節に左右されず、雨が降る直前まで施工しても3分で硬化しているため、雨で防水層が不良にならない利点もあります。そのため、緊急を要する場所にも施工が可能です。
超速硬化ウレタンスプレーは各メーカーから販売していますが、どこも似たような商材です。ただし、機械はそれぞれで推奨しているものがあるので、むやみに他社製の材料を使わない方が良いと言えます。
今後、一層需要が広がりそうな防水工法です。
以下は超速硬化ウレタンスプレーの施工事例です。
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ウレタン防水と同じ塗膜系防水でも、超速硬化ウレタンスプレーは機械にて混合噴射される吹付防水材です。
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材料はこのようにドラム缶でも発注することが出来ます。
ホースの長さは約90Mです。
ネタ場に材料と機械を設置し、施工箇所にホースを伸ばしたらあとは吹付施工していくだけです。
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このように金属屋根にも柔軟に対応し、広大な面積でも短工期で施工が可能です。
手元のガン先から噴射され、3分で硬化、歩行が可能となり連続して吹付施工が可能です。
吹付スタートから約1日で500㎡くらい進める事が可能です。
追っかけてトップコートも塗装してこれるので、その日に防水層が形成されます。
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店舗金属屋根5000平米程の防水が1か月掛からず完了しました。
雨漏りも止まっています。
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用途としてはこのような通常の屋上にも使用できます。
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このような屋上駐車場の車路にも施工が可能です。 車が走っても問題ないくらい強度が強い防水工法です。 ラインや文字なども書くことが出来ます。
8つある防水工法の特徴まとめ
ウレタン防水
■メリット
弾性が良い。改修にも新築にも良好。継ぎ目が出ない。耐候性が良い。次期改修が容易。
■デメリット
少々高い。アクリルよりも施工性が悪い。溶剤臭が出る。
アクリル防水
■メリット
改修工事に最適。下地を選ばないのがポイント。施工性が良い。コスト削減。水性で臭いが無い。
■デメリット
新築には不向き。気温により施工性能に影響を及ぼす。
FRP防水
■メリット
木造に使える。曲げ強度が強い。割れづらい。状態が良いと改修はトップコートだけで済む。
■デメリット
コンクリート下地に密着が悪い。高い。臭い。火災事故の注意。浮きがあると改修が大変。
塩ビシート防水
■メリット
施工性が良い。コスト削減。工期の短縮。機械固定工法により下地撤去が不要になる。トップコート不要。季節に左右されない施工性能。
■デメリット
状況次第で改修時の全撤去が必要になる場合あり。機械固定においては騒音が出る。
熱アスファルト防水
■メリット
耐久性が良い。改修が容易。コンクリート下地に相性が良い。浮きを直すのが容易。保護コンクリート打設が可能。
■デメリット
高額。火を扱います。小面積には不向き。熟練度が必要です。
改質アスファルト防水
■メリット
耐久性が良い。コンクリート打設が可能。施工が容易。改修工事に最適。
■デメリット
トーチバーナーを扱います。熟練度が必要です。
超速硬化ウレタンスプレー
■メリット
乾燥が3分。下地を選ばず柔軟に対応。車を乗り入れする床面も施工可能、コスト削減、工期短縮。高い強度。時期改修も容易。
■デメリット
飛散養生が大変。少人数だと施工性能悪化。施工箇所が遠いと施工性能悪化。
ポリマーセメント防水
■メリット
臭いがない。取り扱いが容易。止水工事も可能。複雑な部位にも可能。小面積でも容易。
■デメリット
耐久性が悪い。割れる。乾燥が遅い。金属との相性が悪い。
まとめ
防水工事には8種類の工法が存在し、それぞれに1級、2級の国家技能検定があります。弊社では自社にすべての防水種類の国家技能士が在籍しています。
また、この他もモルタル防水や加硫ゴムシート防水などがありますが、下地によって使う材料が変わるので、設計屋さんや元請と綿密な話し合いをして工事を進めるべきだと思います。
考えるべきポイントは、まずは予算。そして構造、ランニングコストなのではないでしょうか…。
といっても大体は新築時に設計屋さんが仕様を組んであるので、改修次期に何をするかで一番迷う事になると思います。
防水工事は改修も新築も基本的にはメーカーから10年保証が得られます。せっかく改修したのに雨漏りした、なんてことがないようにしっかり施工したいですね。