クラック補修とは?
結城 伸太郎
モルタル外壁や鉄筋コンクリート造の建物は地震や地盤の動きに追従できなくなり、ヒビ(クラック)が発生します。そのクラックも放っておけばやがて雨水が浸入し雨漏りを引き起こします。
それだけでなく、RCであれば内部の鉄筋が錆、膨張⇒膨れ⇒破損と、徐々に症状が酷くなります。中性化の原因もこのクラック発生からが殆どです。中性化とは、コンクリートに含まれる強アルカリ成分がなくなる現象を言います。
基本的なクラック補修は、【Uカット⇒プライマー⇒シーリング充填⇒セメント補修⇒肌合わせ⇒仕上げ】となります。エポキシ樹脂注入もクラック補修に使われますが、大きく違うのはシーリングを使うかどうかです。ちなみに住宅の外壁では樹脂注入出来ないのでシーリングによるクラック補修が通常です。
木造住宅によるモルタル外壁のクラック補修例
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スタッコ吹付け模様のクラック
一般住宅のモルタル外壁です。既存模様は吹付スタッコ模様でした。
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クラックのUカット~既存模様ケレン
クラックに沿ってサンダーでUカットします。さらにその芯から周辺10センチ程度を削ります。サンダーはマクトルなどで削ると良いでしょう。
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モルタル補修
シーリングでクラックを補修した後、段差を無くす為にセメントで補修します。今回はカチオンタイトを使用しました。
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戻し吹き(肌合わせ)
スタッコの主剤を吹き付けします。吹き付け用のガン器もスタッコガンという専用のガンを使います。
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施工前
青丸のところにあるクラックが…
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施工後
如何でしょうか?上記のやり方で青丸内のクラック処理したんですが、殆ど補修跡が目立ちません。クラックの再発を抑え、さらに限りなく補修跡を目立たなくさせるにはこれだけの手間が掛かるのです。
RC造のクラック補修例
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RC造の外壁のクラック
既存パターンは吹き付けタイル模様でした。
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サンダーでUカット中
Uカットの必要性はシーリングの付着面積を広げる事にあります。充填量を増やす事で今後のムーブメントにも追従できる可能性が上がります。
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プライマー塗布
シーリングが密着するようにプライマーを下塗りします。
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変性シリコンシーリング充填
シーリング充填を注入していきます。
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セメント補修
今回もカチオンタイトを使用しました。
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微弾性フィラー下塗り
吹きつけタイルを吹く前にマスチックローラーでさざ波模様付けをしておきます。厚みを付ける為の下塗りです。
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弾性タイル吹付け
砂骨模様(さざ波)を付けた後に弾性タイルを吹き付けすると殆どわからなくなります。
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RC造の内壁のクラック
続いてRCの内部のクラック補修です。この位太いクラックですとUカットは省略します。
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同じようにシーリングを充填します
Uカットしない分なるべく多めに充填してます。これも動きに追従できる為です。
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セメントで補修
この後パテ付けして内装用塗料で仕上げました。あまりに酷い場合はセメント補修をせず、化粧目地としてシーリング打設部分を現してしまいます。その際は真直ぐUカットして化粧目地を作ります。
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RC造の外壁のクラック
あらかじめマーキングしてあるクラックです。マーキングについては前ページの打診調査をご覧ください。
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サンダーでUカット処理
サンダーで削ります。
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プライマー塗布
プライマー塗布します。
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シーリング充填
ブリード汚染しない変性シリコンを充填しました。
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セメント補修
セメントで補修します。
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シーラー塗布
下塗りの吸い込みを抑え密着も良くなります。
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模様付け
砂骨ローラーで模様つけた後、既存の吹き付けタイルと同じように吹き付けしました。
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トップコート塗装後
トップコート塗装後の様子です。
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サンダー
クラックに浮きがある特に症状が酷い場合サンダーでカッターを入れ斫ります。保護モルタルを撤去してます。
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エポキシ樹脂注入
表面の保護モルタル内に隠れた、躯体部分の本当のクラックに注入しました。
せん断クラックの補修例
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RCマンション外壁のせん断クラック
クラックに浮きが発生している場合は、脆弱部を全て斫ってしまいます。
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ラス金網で補強
サンダーで削ったような甘い段差ではないので、ラス金網で補強してからモルタルを充填します。この段差だと一度のモルタルで埋まりません。
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数回に分けて樹脂モルタルを充填~成形。
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綺麗に段差補修後、既存模様に合わせた模様に吹き付けします。今回はアクリルタイルを吹付けしました。 最後にトップコートを塗って仕上げます。あの大きなせん断クラックがあったのが嘘のようです。綺麗になり補修跡が見えなくなりました。
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屋上防水改修時のクラック
クラック補修は外壁ばかりでは御座いません。時にはこういった屋上防水の改修時や住宅の基礎なども手掛けます。
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エポキシ樹脂を充填
今回はシーリングの補修ではなく、エポキシ樹脂にて補修しました。
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補修後
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仕上げ
ウレタン防水の脱気工法にて仕上げました。ウレタンの伸縮能力付加で、ある程度の揺れや動きに追従しますので、今後クラックが表面に出る可能性は格段に下がります。
豆知識
RC造のワーキングジョイントとは異なり、サイディングの目地(ワーキングジョイント)は2面接着が基本です。サイディングやカーテンウォールの場合は躯体とまったく別の働きをしています。
つまり躯体とサイディングでは、揺れや動きで受けるショック量が違うわけですから、3面接着により躯体と保護材を同化してしまうと、躯体のムーブメントが直接表面にも依存してしまいシーリングが破断してしまいます。
わかりづらいですよね^^;
要するに躯体の動きとサイディングの動きの量が違うので、一体として考えないということです。従ってサイディングなどの目地のシーリングは2面接着がセオリーなのです。逆にRCの誘発目地(ジョイント)は2面接着する意味がありません。
まとめ
クラックの補修は、建物の作りによって施工法が変わります。一番重要なのは再発を防止することです。頻繁に動きが発生する建物ならUカットを深く入れシーリング量を増やしたり化粧目地を設けたりします。化粧目地=誘発目地(クラックを誘導させる目地)
それに付随して仕上げ材は極力弾性系の仕上げにすると尚良いです。それからクラックの補修跡を目立たなくさせるのも重要です。せっかく外壁を綺麗にしたのにミミズのような跡が残っていたら不満ですよね?クラックをキチンと処理して塗装して目立たなくさせるにはそれなりの技術が必要なのです。
当社がやっている事も決して正解ではありません。もっと簡単にもっと効率良い施工法もあるかもしれません。この下地処理だけは今も勉強中の身であると思ってます。