エポキシ樹脂注入(外壁浮き・クラック)
結城 伸太郎
RC造(鉄筋コンクリート)の建物には必ずと言っていいほどヒビ(クラック)が入ります。これは、躯体の動きに対して表面の保護モルタルが追従できないから発生します。RCの躯体と保護材はほぼ同じ働きをしてますから、例えば地震により鉄筋コンクリート躯体が動けば表面の保護材は追従できなくなり、破断若しくは欠損してしまいます。
新築時の施工不良で発生する「コールドジョイント」の場合は躯体内部までせん断してしまい補修というよりは耐震補強の工事の枠となり、さらに大規模な改修が必要になります。保護材のクラックや保護材の浮きなども漏水に直結する問題ですが、今回紹介する樹脂注入である程度攻略できる工程です。
ただしエポキシ樹脂注入工事が耐震補強に繋がるかと言うと、少し微妙です。確かに耐震補強の一環ではありますが、飽くまで注入は保護材の欠落防止に繋がる工事なので、躯体とは別物なんです。躯体の耐震補強工事とは鉄筋コンクリートを活性化させる工事(鉄筋の腐食防錆、中性化防止、圧縮試験)と建物自体の補強(ブレース補強、炭素繊維シート補強、免震工事)がメインだと思います。
参考ですが1981年以降耐震の設計法が改正されているので、それ以前の建物は要注意と言えます。耐震補強関連ですと当社では専門外なので他のHPを参考した方が良いと思います。耐震補強専門の工事屋さんを紹介出来なくは無いのですが、このページでそれを宣伝するのもどうかと…^^;
では、少し紹介してみますが、本来は事前調査でいくつものフローチャートを踏んでどの工程に行き着くか決定&提案するのですが、まず実際に施工した一例を挙げてみます。
自動低圧注入
-
クラックのマーキング。打診調査で説明した通り、注入を行うクラックや浮き部分には、調査で確認できた箇所にマーキングを行います。
-
剥離シール。マーキングが終わったら、低圧注入器の座金に剥離シールを充填しクラック線上にくっつけていきます。間隔は200mm程度が適当と思われます。座金を付け終えたら座金部分を避けたクラック線上に剥離シールを乗せるように充填します。
-
剥離シールが乾燥したら注入器を差込自動低圧で注入していきます。剥離シールは注入したエポキシ樹脂が逆流しないようにするためのシーリングです。
-
エポキシ樹脂がクラック内に充分行き渡ったら注入器と剥離シールを撤去します。剥離シールなのでシール材は容易に剥がれます。剥がした後下地を清掃&調整してパテかい。
-
塗装して出来上がり。注入跡やクラックは見えなくなります。
-
こちらも同じくクラック部分。
-
座金&剥離シール取り付け
-
自動低圧注入。ゴムの圧力でゆっくり注入されていきます。
-
剥離シール撤去~パテかい
-
塗装仕上げ。綺麗ですね。
-
注入中。下地が悪いと写真のように剥離シール部分から液が漏れる事があります。
-
アップ
-
詳細図。200mmピッチが適当と思いますが、三つ又や十字など交差してる部分にはピッチ無視で入れたほうがいいと思います。
-
剥離シール撤去中。簡単に撤去出来ない箇所も出てくるのでスクレーパーなどの力仕事も必要になります。
-
パテかい。
-
塗装仕上げ。
-
外壁の低圧注入も見てみましょう。マーキング。
-
座金&剥離シール充填。
-
注入器挿入~自動低圧。
以上がエポキシ樹脂の自動低圧注入工法でした。かなり簡単に説明した程度です。エポキシ樹脂は通常2液性分なので、樹脂の準備やガン器の準備などやる事がたくさんあります。
マーキング含め、一連の作業を一人でやるよりも複数で分担して作業した方がずっと効率よく進みます。たった一本注入するだけでも全ての工程と道具が必要なので、本数が少なければ少ないほど割高工事になるのは仕方ない事かもしれません。
いずれにせよ塗装前の重要な工程ですから、ここで妥協すると仕上がり全てに影響してしまうので必要最低限の知識と技術が必要でしょう。
アンカーピンニング・高粘度樹脂注入
-
穿孔(部分注入)。あらかじめ浮き部にマーキングしておきます。浮き部の注入は基本、1.部分注入、2.全面注入、に分けられます。
-
手動注入ポンプに高粘度エポキシ樹脂を充填して穿孔した穴から注入。注入前にブロワやエアーダスターなどで穴の内部を清掃します。
-
注入後アンカーピンを挿入。アンカーピンは事前調査で計画したサイズのピンを挿入します。
浮き部の注入は一般と指定に分けられ、1㎡辺り9穴か16穴が基本です。つまり1m四方にグリッド入れたと仮定して、250mmピッチで16穴。つまりこういうこと… -
部分エポキシ樹脂注入工法(1㎡基準)。赤丸部分を穿孔して樹脂を注入し、さらにアンカーピンを挿入する箇所。一般部分(外壁など)注入と言うとこれが9穴だったりします。
全面エポキシ注入。全面注入と言うと、上図よりもさらに倍の16箇所穿孔し注入する。しかし、アンカーピンを入れるのは16箇所。赤丸よりも若干ずらした所をさらに穿孔する事になります。厳密に言うと125mmピッチで穿孔する事になります。大変ですね。
他にもスポット的に注入する場合は基本200mmピッチ間隔となります。例えば、細長い面や1㎡満たない面積は、浮き部の中心から200mmピッチで拡散して注入します。
-
最後は塗装して仕上げます。
-
アンカーピンによる注入工法の詳細図。
-
鳥居を改修した時の注入。
-
タイルの場合は塗装仕上げが無いので、安易にマーキングは出来ません。その際は、ガムテープやチョーク等でマーキングしています。
-
目地に注入してますが、タイル表面に注入する事もあります。その場合は、色を合わせ塗装するか、穿孔した穴を塞ぐ為のキャップを使ったりします。
-
タイル穿孔中。
-
エポキシ樹脂注入。
-
アンカーピン挿入。タイルは最後にクリアー仕上げをする場合もあります。その際は防水性に富んだ保護クリアーなど使うとより効果的だと思います。他にも低汚染タイプのクリアーも販売されてます。
-
屋上の防水工事にも注入する事もあります。トップライトへ漏水してるクラック。
-
座金取り付け⇒シリンダー設置
-
座金取り付け⇒シリンダー設置
-
手動で入れる箇所も。
-
注入後。
-
防水施工後。
以上がエポキシ樹脂注入工事の内容です。どこに何をしたから正解、と言うわけではなく、例えば浮き部にはキチンと注入されていれば再打診した時に音が変わります。
クラックに注入されていれば再発防止に繋がります。逆にいくら注入しても入らないクラックもあります。事前にフローチャートを踏んで各工程と作業内容に移るのですが、調査時では認識できなかった損傷が作業中では見つかります。
しかし、その都度違う補修を考え提案し施工していく事が大事です。一番重要なのは【ヒビだらけの建物に住んでいる住民や管理人の不安を取り除くこと】です。
地震の影響でヒビだらけになった建物に住む一般住民の不安は相当なものだと思います。この作業は、塗装してしまえば何をしたのか全く判らなくなる作業です。
だからこそ入念な調査と検査、そして知識と技術が必要になると思います。写真管理も含めた慎重な管理が大切なのです。